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2026.01.16

連載・技術解説・セミナー

概説:「赤外線センサの基礎と応用および注目分野」

著者:木股 雅章

木股 雅章
木股 雅章(きまた まさふみ)

1. はじめに

赤外線センサは、単画素センサが人感センサや耳体温計など身近な応用で活用されているが、宇宙や防衛分野などで使用される高性能赤外線イメージセンサ (Infrared Focal Plane Array、以下略してIRFPA) も含まれていて、個々の応用分野におけるビジネス規模は小さいが、応用範囲は非常に幅広く、無くてはならないセンサの一つである。単画素センサは、技術的にもビジネス的にも成熟した状況にあるが、IRFPA市場では熱型赤外線センサを用いた非冷却IRFPA市場が年10%程度の成長率で成長していて、車載応用などでのさらなるビジネス拡大が期待されている。本稿では、今後が注目されるIRFPAを中心に基礎、最新技術動向、注目応用分野を解説する。

2. 波長帯と検出器の種類

赤外線の波長帯の分類については分野ごとに定義が異なるが、赤外線センサの分野では、SWIR (Short-Wavelength Infrared, 1〜3µm)、MWIR (Middle-Wavelength Infrared, 3〜5µm)、LWIR (Long-Wavelength Infrared, 8〜14µm) の3つの波長域に分けることが多い。赤外線センサとしては、NIR(Near infrared, 0.7〜1µm)も対象となるが、可視光センサであるSi検出器などが使える波長域であり、本稿では対象から外している。
図1に波長帯と対応する検出器技術をまとめた。赤外線センサは大きく熱型と量子型に分けられる。熱型赤外線センサは、LWIR波長帯用であり室温で動作する。単画素センサとしては焦電センサも広く利用されているが、IRFPAとしては、抵抗ボロメータを温度センサとしたマイクロボロメータ赤外線センサや、ゼーベック効果を利用したサーモパイル方式が一般的である。
量子型赤外線センサでは、狭エネルギーバンド半導体を用いたものが主流であるが、QSIP (Quantum Structure Infrared Photodetector)と半導体ナノ粒子を用いたCQD (Colloidal Quantum Dot) 赤外線センサも実用化されていて、成長が期待されている。QSIPは異種半導体を原子層レベルの厚さで積層した光センサで、QWIP (Quantum Well Infrared Photodetector) とType-II超格子赤外線センサがこの範疇に含まれている。

図1 波長帯と検出器

3. 熱型赤外線センサ

図2に表面マイクロマシニング技術で作製されるマイクロボロメータの画素構造を示す。赤外線吸収層と抵抗ボロメータ薄膜層からなる受光部は、2本の細長い支持脚で支えられ、基板と断熱されている。この断熱構造を用いることで、吸収した赤外線を効率よく受光部の温度変化に変換することができる。温度変化はボロメータの抵抗変化として検出する。一方、サーモパイル赤外線センサは、バルクマイクロマシニング技術でSiバルク内のSiを除去して受光部となる薄膜メンブレンを中空に浮かせて断熱する構造が一般的である。

図2 マイクロボロメータの画素構造

2024年に米国運輸省道路交通安全局(National Highway Traffic Safety Administration、略してNHTSA)が、夜間の歩行者に対する衝突防止を含む機能も有したAEB (Autonomous Emergency Braking) シシテムの搭載を義務付ける安全基準FMVSS-127 (Federal Motor Vehicle Safety Standards-127) を制定し1,2)、車載非冷却赤外線イメージング市場に大きな影響を与え始めている。NHTSAは、赤外線カメラを含まない現状のハードウエアのままでソフト改修のみで要求する安全基準が満たせると考えている。しかし、Teledyne FLIRとVSI Labsが既存システム対する赤外線ナイトビジョンシステムの夜間の優位性を実験で示しており3)、車載赤外線ビジネス拡大への期待が高まっている。こうした状況を反映して、既存の車載赤外線イメージング関連企業のパートナーシップの再編(Tier 1のMagnaとセンサメーカのLynred、Tier 1 のValeoとセンサメーカのTeledyne FLIR)4)や、スタートアップの企業(Adasky5), Foresight Automotive6), Owl Autonomous Imaging7), Obsidian Sensors8)など)の参入など、これまでになかった動きがみられるようになった。また、Lynredは現在85Mユーロを投資して生産能力現状の2倍とする工場拡張を進めており9)、これも車載需要の拡大を見据えたものと考えられている。さらに、Obsidian Sensorsは、LCD技術を活用して安価で大量生産可能な非冷却IRFPA技術を開発し、ジャパンディスプレイなどと協力して車載赤外線カメラビジネスへの参入を目指している10)
車載赤外線ナイトビジョンシステムの普及には赤外線カメラの低コスト化、小型化が必須となるが、そのためには画素ピッチの縮小が有効である。画素ピッチは12 µm世代でしばらく停滞していたが、最近再始動し始め、すでに3社が画素ピッチ8 µmクラスのIRFPAを発表し11, 12, 13)、米国では画素ピッチ縮小技術に対する公的資金援助も始まっている14)

4. 量子型MW/LW赤外線センサ

量子型MW/LW赤外線センサは、化合物半導体や化合物半導体基板上のエピ構造を用いており、信号読出回路を同じ基板上に集積化することは困難である。そのため、この種の量子型MW/LW IRFPAでは、図3に示すようなハイブリッド構造が採用されている。この構造では、信号読出回路を作製したSiチップと、化合物検出器チップを画素毎にInバンプで接続している。ハイブリッド構造は、画素ピッチ縮小と多画素化が難しい構造であるが、すでに画素ピッチが5 µmの5M画素のMWIR FPAが市場投入されている15)

図3 量子型MW/LW赤外線センサのハイブリッド構造

量子型MW/LW赤外線センサ分野では、研究開発の中心は、これまで主流であったHgCdTeとInSbからType Ⅱ超格子を用いたものに移っている。Type Ⅱ超格子は、二種類の半導体を数から数十原子層の厚さで交互に積層したもので、カットオフ波長は二種類の半導体の厚さで制御することができる。赤外線センサに用いられているType II超格子材料としては、InAs/Ga(In)SbとInAs/InAsSbが報告されている。日本でもJAXA/住友電工チームがType Ⅱ超格子IRFPAの開発を進めている16)
量子型MW/LW赤外線センサは冷却して使用されるが、HgCdTeでは従来に比べ高温で動作させるHOT (High Operating Temperature) 化が進んでいる。Type Ⅱ超格子検出器やカットオフ波長が4.2 µmのInAsSb検出器でも、多数キャリアの流れを阻止するバリア構造を挿入した構造によりHOT化が進められており、MWIRでは150 K程度での動作が可能になっている17)

5. SWIRセンサ

SWIR分野では、InGaAsが主流である。InGaAs IRFPAは量子型MW/LW 赤外線センサと同じようにハイブリッド構造である。InGaAsはInAsとGaAsの比率を変えることでカットオフ波長を調整することができるが、基板材料となるInPと格子整合するのはIn0.53Ga0.47Asで、この組成はカットオフ波長が1.7 µmに相当する。
SWIR赤外線センサ分野では、従来のハイブリッド構造を必要としないPbS CQD (Colloidal Quantum Dot) 赤外線センサも開発されており、低コスト版として注目を集めている18)。CQDは直径が数nmから数十nmの半導体ナノ材料である。CQD赤外線センサのカットオフ波長は、使用するCQD半導体の種類と直径で決まり、直径が数nmのPbSを用いるとSWIR波長域に感度をもった赤外線センサを作ることができる。CQD赤外線センサは、スピンコートでSi読出回路ウエハ上に形成することができ、最終製造工程までウエハレベルでのプロセスが可能である。CQD赤外線センサは、InGaAsに比べ量子効率は低いものの、モノリシック構造であるため生産性で優れていて、画素ピッチの縮小も容易であり、今後が期待されている。

6. おわりに

熱型赤外線センサ、量子型MW/LW赤外線センサおよびSWIRセンサについて基礎的および最新動向を解説した。熱型赤外線センサでは車載ビジネス、量子型MW/LW赤外線センサではType Ⅱ超格子赤外線センサの進歩、SWIRセンサではCQD技術が注目される。

著者略歴

木股 雅章(きまた まさふみ)

1976年 名古屋大学大学院工学研究科修士課程修了。同年 三菱電機株式会社入社。 2004年 三菱電機株式会社退社。同年 立命館大学理工学部教授。2022年 立命館大学退職。1980年より現在まで赤外線イメージセンサの研究開発に従事。2009年よりJAXAのType-II超格子赤外線センサの開発に参画。工学博士、SPIEフェロー。2013〜2014年 日本赤外線学会会長。1988年 市村賞貢献賞、1993年 全国発明表彰内閣総理大臣発明賞、2016年 日本赤外線学会業績賞などを受賞。

参考文献

  1. Maxtech International, Infrared Imaging News 2024年5月号
  2. https://www.nhtsa.gov/sites/nhtsa.gov/files/2023-05/AEB-NPRM-Web-Version-05-31-2023.pdf(2025年9月)
  3. Teledyne FLIR, “Thermal-Fused Automatic Emergency Braking (FMVSS No. 127 Pedestrian Automatic Braking Test Report)” Dec. 2024
  4. Maxtech International, Infrared Imaging News 2024年5月号
  5. https://www.adasky.com (2025年9月)
  6. https://www.foresightauto.com (2025年9月)
  7. https://www.owlai.us (2025年9月)
  8. https://www.obsidiansensors.com (2025年9月) 
  9. Maxtech International, Infrared Imaging News 2023年8月号
  10. Maxtech International, Infrared Imaging News 2025年2月号
  11. https://en.raytrontek.com/product/infrared.htm(2025年9月)
  12. S. Cortial, et al., Proc. SPIE Vol. 12534, pp. 125341A-1-10 (2023)
  13. M. H. Kwon, et al., Proc. SPIE Vol. 12534, pp. 125341C-1-8 (2023)
  14. Maxtech International, Infrared Imaging News 2024年3月号
  15. https://scdusa-ir.com/products/crane-5mp-5µm/(2025年9月)
  16. 下村, 赤外線アレイセンサフォーラム資料 (2024)
  17. https://www.irnova.se/t2sl-oden-mw(2025年9月)
  18. Maxtech International, Infrared Imaging News 2016年6月号