2026.02.12
MEMSセンサの概要と今後の注目応用分野
㈱メムス・コア
東北大学 マイクロシステム融合研究開発センター (μSIC)
1. はじめに
半導体微細加工技術を多様な形で用い、システムの要素を製作するMEMS (Micro Electro Mechanical Systems) は、様々な分野で用いられている。集積回路は多数のトランジスタで情報処理するのに用いられるが、MEMSは入力部のセンサや出力部のアクチュエータの他、フィルタなどの通信用部品などで重要な役割を果たしている。スマートホンなどに用いられる低価格の量産品から、医療用の使い捨てツール、集積回路の検査に用いられるプローブカードのような少量で高付加価値の部品まで多様な形で使われている。
以下ではMEMSセンサを中心にどのように使われているか、また今後の応用分野の参考になるものなどについて述べる。センサを測る対象で分けると、圧力あるいは加速度や角速度のような機械量のセンサ、可視光や赤外線およびその画像を得るのに用いられる光センサ、磁気センサ、温度センサ、液体や気体の流量・流速センサ、味やにおいなどの化学センサなどが用いられる。以下ではこのような測るもので分類してMEMSセンサを紹介するが、物理・化学量を電気信号に変換する方式にも様々なものがあり、また画像センサのようにアレイ状のセンサなどで回路を集積化したものなどがある。この他距離画像センサなどでは、対象物で光が反射して戻るまでの時間を測るが、そのためには光を出す要素なども必要となる。
2. 機械量センサ
2.1 圧力センサ
シリコンの薄いダイアフラムが圧力差で変形するのを、ダイアフラム上に形成した拡散層の抵抗変化として測るピエゾ抵抗型圧力センサ(図1(a))は、1980年代から自動車のエンジン制御に用いられた1)。センサの装着(パッケージング)を工夫し、図1(b)のようにシリコンと熱膨張が近いガラスを介して容器に取り付けて温度の影響を受けないようにしている。エンジンの吸気部に取り付け気圧の変化に対応して燃料の噴射を調節することで、不完全燃焼などを避け環境浄化に貢献した。圧力センサにはダイアフラム両側の圧力差を測る相対圧型の他に、片側は真空など一定の圧力にする絶対圧型もある。
ダイアフラムの動きを静電容量の変化として検出する容量型圧力センサもある。図2の例は容量検出用の集積回路を内蔵した集積化容量型圧力センサで、内蔵することで寄生容量の影響を受けずに高感度になり微小圧力を検出できる2)。これでは集積回路を形成したシリコンウェハにガラスをウェハ状態で陽極接合し、チップに切り離すことでパッケージングに入った形に製作するウェハレベルパッケージング技術を用い、小形で安価に製作することができる。これはエアコン用フィルタの目詰まり検知などに用いられた。
2.2 加速度センサ
動いたときの慣性力によりばねで支えられた錘が動くのを検出する加速度センサは、1990年代から自動車の衝突を検出してエアバックが膨らみ乗員を保護するのに使われている。図3は米国のアナログデバイス社において開発され衝突検出に用いられた加速度センサである3)。BiCMOS集積回路の上に加速度センサが作られている(図3(a))。これは犠牲層と呼ばれるリンガラスの上にポリシリコンの構造があり、犠牲層をエッチングで除去することにより、横方向の加速度によりばねで支えられた錘が動いて静電容量が変化する構造が作られている(図3(b))。この作り方は米国のUCバークレーで開発されたもので「表面マイクロマシニング」と呼ばれる。錘の動きを静電容量の変化で検出するための回路が集積化されている。2軸の集積化加速度センサや、錘を静電アクチュエータで動かして動作を確認する自己テスト機能が搭載されたものもある。
3軸加速度センサを建物に取り付けて、2011年におきた東日本大震災の地震前後で共振周波数が変化したのを測定した例がある4)。建物に割れ目が入ると共振周波数が低下するが、その後の補修工事で強度が改善された様子が分かる。
2.3 角速度センサ (ジャイロ)
錘が動いて、それが載っている台が回転した時、慣性力で錘が同じ方向に動こうとしてコリオリ力が発生する(図4)。これを測る角速度センサはジャイロとも呼ばれる。自動車用に振動ジャイロがパナソニック㈱で開発されてカーナビゲーションに使われており、トンネルに入って人工衛星からのGPSの電波が届かなくても自動車の走ってる向きを測れるようにしている5)。このセンサではPZTによる圧電薄膜を載せたシリコンを横方向に音叉振動させ、コリオリ力で生じる縦方向の動きを別の圧電薄膜で検出する。
図5はトヨタ自動車㈱で開発され使われているヨーレート・加速度センサである。2000年頃から自動車には角速度センサ(ジャイロ)により車のスピンを防止して、運転手の思った通りに走れるアクティブセーフティと呼ばれる機能が搭載されている6)。図5(a)のように2つの錘が静電引力で音叉振動し、回転によるコリオリ力でこれらの錘が反対向きに動くのを静電容量変化で検出する。図5(b)左のように、これによってスピンを検出しコンピュータが車のブレーキを非対象にかけてスピンを止めている。また図5(b)右に示すように、錘が同じ方向に動くことから横滑りを検出して運転手に知らせる。
図6(a)に示すものは静電浮上回転ジャイロと呼ばれ、3軸加速度と2軸周りの角速度を測定できるものである7)。東京計器㈱で開発され、東京の地下鉄で車体の動きを検出しモーションロガーに記録している。外径1.5mmのシリコンのリングが高速ディジタル制御で浮上して毎分7.4万回転し、回転軸に直交する2軸周りの角速度を高精度に検出できる。錘は3方向の静電容量で位置を検出して静電引力で浮上させる(図6(b)は上下方向の制御)。またリングの回転位置を静電容量で検出し、必要な電圧を印加して静電引力で回転させている。なお静電浮上回転ジャイロは、米国の原子力潜水艦の航行制御に用いられたもので、当時(1964年)は真空管がその制御に用いられた8)。普通の航行制御には人工衛星からの電波によるGPSが用いられているが、潜水艦の場合は海の中で電波が届かないため、このような昔ながらのジャイロコンパスが用いられてきた。
この他角速度センサ(ジャイロ)はカメラの手振れ防止などに、広く用いられている。また角速度ではなくて角度を測る積分ジャイロもあり、代表的なものはフーコーの振り子で、地球の回転により振動の向きが変化する。
2.4 接触センサ
図7で安全な介護ロボットのための触覚センサネットワークを紹介する9)。これは東北大学とトヨタ自動車や豊田中央研究所で開発されたもので、ロボットの体表にフレキシブル基板に付けた触覚センサを分布させ、リアルタイムで接触を検知できるようにしたものである。このため、図7(a)のように高密度集積回路のチップ上に接触を容量変化で検知するセンサを付け、クロック速度40MHzのパケット通信で接触をリアルタイムで検知する。
この他接触を用いたセンサとしては、スマートホンなどで認証検知のため超音波で指紋を検知するものなどが用いられている10)。
3. 光による画像センサ
TVカメラなどの各種画像センサが用いられており、特にスマホなどに使われている裏面照射CMOSイメージャでは、金属端子と絶縁膜を平坦化しプラズマで活性化することで高密度の集積回路と接合するハイブリッドボンディングが用いられている11)。
また熱型赤外線イメージャでは各画素の赤外線を温度に変換して検出しており、安全監視などに用いられている12)。
光は1nsで約30cm進むので対象物で反射して戻るまでの時間を測ることで距離を知ることができる。図10のようにしてミラーを2方向に動かす2軸光スキャナによって光をスキャンすると、色が距離に対応した距離画像センサとして使用できる。図はこれを用い飛び乗る人を誤ってはさまないようにしたプラットフォームドアの例である。このような距離画像センサは自動運転のためのLiDAR (Light Detection And Ranging)としても使われる。
(山手線 恵比寿駅) (日本信号㈱)
4. 磁気センサ
磁気センサは地磁気を測り方向を知る磁気コンパスとして、スマートホンなどで用いられており、図11はその例である。同図(a)はその要素となるホール素子で、垂直のZ方向の磁場によって電流Isが曲げられて電圧VHが発生し磁場を知ることができる。3方向の磁場を検出するには同図(b)(c)のようにCMOS回路と4個のホール素子を載せたチップ上に強磁性体による磁気収束板を置くことにより、その端部でX方向やY方向に磁界が曲げられてZ方向になるので3軸磁気センサとして使用できる15)。なおホール素子は電磁モータで回転角度を検出することで、ブラシレスモータに役立っている。
5. その他のセンサ (温度、流速・流量、匂いや味のセンサ、成分などの化学センサ)
ヒータと温度センサを用いることで、気体や液体の流れを温度変化で知ることができ、これは熱型流速センサと呼ばれている。
匂いや味などのセンシングも求められている。空港の入国管理などに居る麻薬犬の代わりになる高感度な匂いセンサを紹介する。スウェーデンのT. FriskらはQCM (Quarts Crystal Microbalance)と呼ばれる水晶振動子を用いた麻薬のセンサを開発した。水晶表面の抗体分子が抗原としての麻薬と抗原抗体反応して外れ、振動子の共振周波数が変化する。これによって高い感度と選択性を持つ匂いセンサが作られている16)。
また九州大学名誉教授の都甲潔氏が開発した味覚センサが使われている17)。これは異なる選択性を持つ複数の脂質電極を用い、主成分解析という方法で味覚として定量化するものである。
著者略歴
江刺 正喜
㈱メムス・コア、東北大学 マイクロシステム融合研究開発センター (μSIC)
1971年東北大学工学部電子工学科卒。1976年同大学院博士課程修了。同年より東北大学工学部助手、1981年助教授、1990年より教授となり、2013年定年退職。現在 ㈱メムス・コア CTO、兼 東北大学 マイクロシステム融合研究開発センター(μSIC) シニアリサーチフェロー。半導体センサ、マイクロシステム、MEMS (Micro Electro Mechanical Systems) の研究に従事。
著書:「半導体集積回路設計の基礎」 培風館(1986年)、「電子情報回路ⅠⅡ」 森北出版(2014年)、「はじめてのMEMS」 森北出版(2011年)、「これからのMEMS」 森北出版(2016年)、「超並列電子ビーム描画装置の開発」 東北大学出版会(2018年)、「3D and Circuit Integration of MEMS」Wiley VCH (2021) (M. Esashi ed)、「エレクトロニクス関連の産業創出 ―設備共有による連携と近代技術史―」 東北大学出版会(2025年) 他
参考文献
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